相対性理論のQ&A
ブラックホールを使ってタイムトラベルが可能になるの?
ソーン博士のタイムトラベル
カリフォルニア工科大学のソーン博士は、ジョン・ホイーラーの門下生の物理学者です。ソーン博士はワームホールを利用することでタイムマシンが実現できると主張し、1988年に論文をフィジカル・レビュー・レターズに投稿しました。フィジカル・レビュー・レターズが権威のある学術論文誌であったことから、大きな話題になりました。
ソーン博士のタイムトラベル理論はワームホールを利用します。 まず、ワームホールを出口と入口が隣り合うように人工的に作ります。 このときの時間は正午だったとしましょう。
入口を光速に近いスピードで遠ざけ、再び出口の隣に戻します。このとき出口側の時計では午後2時ですが、入口は相対性理論の効果によって時間が遅れ午後1時です。
出口の時計が午後2時を示していることを確認してから、10分かけて入口に到着します。入口の時計は午後1時10分です。ここで自分の時計を午後1時10分に合わせてワームホールに入ります。
瞬時に出口から出てくると、午後2時に出発したはずなのに、時間を遡って午後1時10分も戻ったことになります。
ソーン博士の説によるとタイムトラベルの理論が完成したように見えますが、疑問も多く残ります。ワームホールを人工的に作れるのでしょうか?作れたとしても安定して存在できるのでしょうか?出口や入口は素粒子サイズではなく、人が通れるのでしょうか?ワームホールを高速で移動させることが可能なのでしょうか?
仮にこれらの疑問が解決したとしても、過去へのタイムトラベルは不可能だろうとホーキング博士は考えています。これが時間順序保護仮説です。
時間順序保護仮説
ソーン博士の説に対しホーキング博士は否定的な立場を取っています。物理学には因果律という大原則があります。タイムマシンは因果律を破壊してしまうので、因果律を守るための自然の法則が存在すると考えます。これを時間順序保護仮説といいます。
ひたすら未来へ向かうだけのタイムトラベルであれば、原理としては可能です。光速に近いスピードで飛ぶロケットに乗り、地球を出発します。戻って来たときにはウラシマ効果で地球は未来になっています。 この方法によるタイムトラベルは過去に戻れません。ここで注意しなくてはならないのは未来へ向かうだけのタイムトラベルでは因果律を破らないので時間順序保護仮説に反しません。
ポルチンスキーのビリヤード
ポルチンスキーはビリヤードを使った思考実験でタイムマインの可能性に疑問を提示しました。
ビリヤード台の二つの穴がワームホールでつながっており、一方の穴にボールが落ちるとタイムトラベルをして他方の穴から5秒前のビリヤード台に出現します。 出現したボールが最初のボールにぶつかり進路を曲げたらどうなるでしょうか? 最初の穴に入ることがなくなるので、もう一方の穴から5秒前の世界に戻ってくることもありません。これがビリヤードのパラドックスです。
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参考文献・サイト
佐藤勝彦/監修「最新宇宙論」学研,2009
「ニュートン別冊 相対性理論」ニュートンプレス,1991
真貝寿明/著「タイムマシンと時空の科学」ナツメ社,2011
佐藤勝彦/著「相対性理論を楽しむ本」PHP文庫,2011
2012/08/02