天体望遠鏡の選び方を語る。
倍率に惑わされないために
天体望遠鏡の性能は口径で表す
「天体望遠鏡は高倍率ほど高性能」と考えてしまう人がいるが、これは誤りである。
クルマの性能を表す指標の一つに排気量がある。
決して「最高速度」ではない。
クルマの性能にとって最高速度は重要ではなく、排気量がより重要なのである。
だから、クルマは速度ではなく、排気量によってランク付けされるのだ。
同様に天体望遠鏡の性能にとって、倍率は重要ではない。
天体望遠鏡の性能を示す本質は、口径である。
口径とは、対物レンズ(または対物鏡)の直径のことである。
クルマが排気量でランク付けされるように、天体望遠鏡は口径によってランク付けされるのだ。
口径が大きいと次のようなメリットがある。
多くの光を集めることができる | この能力を集光力という。 集光力が大きいと視野が明るくなる。 |
かすかな星の光を捉えることができる | この能力を極限等級という。 極限等級が大きいと、より暗い星まで見ることができる。 |
より細かいところまで見分けることができる | この能力を分解能という。 分解能が高いと、より細かな月面の地形や土星のリングが見える。二重性の分解も容易になる。 |
天体望遠鏡の選び方のポイントの第一は「口径」なのである。
天体望遠鏡の倍率は、接眼レンズ(アイピース)を交換することで切り替えることができる。
天体望遠鏡の倍率は固定されていないのである。
そのため「この天体望遠鏡は何倍ですか?」という疑問は無意味であることが分かる。
天体望遠鏡の販売店で「○○倍の天体望遠鏡」と売り出していたら、その店の知識を疑った方がいいだろう。
「最高速度○○のクルマ」と言って売っているのと同じである。
天体望遠鏡の倍率の意味は?
接眼レンズ(アイピース)を交換すれば、天体望遠鏡の倍率は変更できる。
天体望遠鏡の倍率は、対物レンズの焦点距離を接眼レンズの焦点距離で割った値である。
対物レンズの焦点距離が1000mmで、接眼レンズの焦点距離が5mmであれば、その倍率は200倍である。
(1000mm÷5mm=200倍)
このように、より短い焦点距離の接眼レンズを使えば天体望遠鏡の倍率はアップできるのだ。
しかし、同じ100倍であっても「口径5cmの100倍」と「口径20cmの100倍」ではその意味が違う。
口径20cmの対物レンズは口径5cmの16倍の面積を持っている。
このため16倍の集光力を持っているのだ。
分解能も極限等級も、口径20cmの方が優れている。
口径5cmの天体望遠鏡にとって200倍は、分解能を超えて拡大しているので像はぼやけてしまう。
200倍は口径5cmの天体望遠鏡にとって実力を無視した無理な倍率なのだ。
ところが、口径20cmにとって200倍は実力を発揮できる倍率である。
口径20cmの持つ分解能の範囲で拡大しているので、像もぼやけない。
集光力もあるので、像も明るい。
実力を発揮できる倍率は、口径をミリメートルで表した値である。
例えば、5cmなら50倍、20cmなら200倍である。
とりあえず観測可能な高倍率は、この2倍が目安である。
5cmなら100倍、20cmなら400倍である。
5cmで200倍は使用に耐えられるものではない。
繰り返しになるが、倍率を目安に天体望遠鏡を選ぶことは本質を外している。
量販店で、5cmの望遠鏡を「280倍の高倍率。土星の輪もくっきり」と宣伝している広告を見たことがある。
この店は、本当に天体望遠鏡を理解して売っているのかと疑問を持つ。
ここでは5cmと20cmを比較したが、「5cmの性能は低いので使い物にならない」と言っているのではない。
適正な倍率で使えば、月のクレーターも見えるし、ガリレオ衛星も土星の輪も見える。
単に20cmの方が、像がより鮮やかで細かい部分まで見えるのである。
光学系の違い
天体望遠鏡は、対物レンズで焦点を結び、接眼レンズで焦点の像を拡大するのである。
焦点を作れるのであれば、対物レンズでなくてもいい。
凹面鏡を使って焦点を作ることもできるのだ。
凹面鏡に並行光が入射すれば、反射光は焦点を作る。
つまり、凹面鏡を使っても天体望遠鏡が作れるのだ。
凹面鏡を使った天体望遠鏡を反射式望遠鏡という。
これに対し、凸レンズで焦点を作る天体望遠鏡を屈折式望遠鏡という。
天体望遠鏡のカタログを見ると、同クラスの口径であれば、反射式望遠鏡の方が、安価であることが分かる。
屈折式望遠鏡の対物レンズは複数枚から構成されており、各レンズの裏・表の両面に精度が要求される。
ところが、反射式は反射面の一面のみの精度でいいので、製造コストが屈折よりも安いのだ。
そのため、口径が同クラスなら、屈折よりも反射の方が安いし、同価格帯であれば、反射式の方が、より大口径が得られるのだ。
少しでも口径の大きい天体望遠鏡が欲しくなるのが人情だ。
このため、どうしても反射式望遠鏡に目が行きがちになる。
ところが、反射式望遠鏡は屈折式望遠鏡に比べて割安であるが、購入後に手間がかかる。
その一つに光軸調整(光軸修正)がある。
反射式望遠鏡の光軸は徐々にずれていくので、時々調整しなくてはならない。
未調整では、像が甘くなるので、口径に相応した能力を発揮できなくなるのだ。
さらに、筒内気流も問題になる。
反射望遠鏡の先端は開放されている。
望遠鏡を室内から外に出すと、望遠鏡内の空気と外気の気温差から筒内に気流が発生する。
これは、口径が大きいほど激しいので、像がユラユラと揺れ見にくくなるのだ。
筒内気流は、15分から30分で安定するので、この時間を見越して観測開始の前に望遠鏡を外に出さなくてはならない。
天体望遠鏡を選ぶにあたっては、反射式は屈折式よりもより手間がかかるということを理解しておく必要がある。
架台
天体望遠鏡の鏡筒を手で支えたまま観測することはできない。
少しの振動で視野が揺れるので、まともに像を見ることができない。
第一、腕力が続かず、筒を落とす危険もある。
実際には鏡筒を台に載せて使用する。
この台を架台という。
架台を操作して、鏡筒を目標天体へ向けるのである。
架台には、経緯台と赤道儀がある。
経緯台式望遠鏡
入門者に理解しやすいのは、経緯台である。
経緯台は鏡筒を、水平方向・垂直方向へ動かして目標へ向ける。
これは、砲台をイメージすればいいだろう。
天体の日周運動に合わせて鏡筒を動かすために、微動ハンドルが付いているものもある。
赤道儀式望遠鏡
経緯台は水平方向の軸と、垂直方向の軸から構成されている。
これに対し、赤道儀は地球の自転軸と平行な軸(極軸)、および極軸と垂直な軸(赤緯軸)から構成される。
南側の空を見てみよう。
天体は東から上り、真南で最大高度になり、西へ沈む。
つまり星の位置は、水平方向と同時に垂直方向にも変化していることなる。
この動きを経緯台で追う場合、垂直軸と水平軸を同時に操作しなくてはならない。
経緯台の一方の軸の操作だけで、星を追うには架台を傾ければいい。
鏡筒を水平方向に動かす軸(垂直軸)を北極星の方向に向ける。
北極星は天球の回転のほぼ中心だから、垂直軸を傾ければ、それは、天球の回転軸と一致させたことになる。
この状態で星を視野に導入すれば、傾いた垂直軸を回すだけで、星の動きを追尾することができるのだ。
これが赤道儀の基本原理である。
天体望遠鏡のカタログを見ると、傾いた軸を持つ架台がある。
これが赤道儀だ。
傾いた軸を極軸という。
観測にあたっては、極軸を天球の回転軸(地球の自転軸)と並行にする必要がある。
赤道儀は傾いた構造をしていることから、経緯台以上にバランスを取るのが難しい。
バランスが悪いとスムーズに天体を追うことができない。
そこで、鏡筒の反対側に釣り合いを取るためのバランスウエイトを装備している。
経緯台は、鏡筒一本を支えればいいが、赤道儀は鏡筒とバランスウエイトの両方を支えることになる。
つまり、赤道儀は経緯台の二倍の重量に耐えなくてはならないことから、より頑丈な設計が求められる。
このため同一の鏡筒を支えるのであっても赤道儀は経緯台よりも重量があり、高価である。
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参考文献・サイト
2008/06/02
2008/11/24