水星を語る。
水星とは、どんな惑星なのか?
太陽系の中で最も内側を回る惑星が水星である。
常に太陽の近くから離れないので、日の出直前、または日没直後しか見ることができない。
しかも最大でも27.8度しか太陽から離れない。
最も明るいときでマイナス2等になるにもかかわらず、水星を見るチャンスは限られているのである。
このため、コペルニクスは生涯水星を見ることができなかったという逸話も残っている。
水星は太陽系最小の惑星だ。
その大きさは、地球の約3分の1程度でしかない。
ガニメデよりも小さい。
最小の惑星は、最大の衛星よりも小さいのである。
水星の公転周期は88日、自転周期は58.6日である。
88日と58.6日は3:2の比率になる。
水星の公転と自転は、3:2で共鳴しているのだ。
水星の特色
水星の地形
1974年にマリナー10号が撮影した水星の南極付近
出展:Solar System Exploration:Mercury
水星の表面は、ゴツゴツとした岩石質でクレーターに覆われている。
月と同様に、激しい隕石衝突の歴史を経て現在に至っているからだ。
NASAの水星探査機メッセンジャーが接近するまで、水星を直接観測した探査機はマリナー10号しかなかった。
この探査によって、水星の表面はクレーターに覆われており、月に似ていることが分かった。
しかし、月面のような「海」に相当する部分はほとんどなさそうだ。
水星には、プレートテクトニクスや火山活動の痕跡は見つかっていない。
下の写真はメッセンジャーが最初に水星に接近したときに撮影した画像だ。
メッセンジャーが撮影した水星
出展:APOD:Mercury's Horizon from MESSENGER
月のクレーターに比較して水星のクレーターは全般に浅い。
重力が強いため、クレーターの縁が高くなりにくいのかもしれない。
水星のコア
水星の直径は、わずかの差でガニメデよりも小さい。
ところが、水星はガニメデよりも2倍重いのだ。
ガニメデは氷と岩石が半々であるが、水星は岩石3割、鉄7割でできているからだ。
ガニメデと同サイズでありながら2倍重いのは、水星のコアの影響である。
水星のコアは非常に大きく、そのため密度も際立って大きい。
一方で、水星表面のいたるところにシワがよっている。
これは、水星が冷えていく過程で、水星全体が収縮したための地形の変化らしい。
このため、水星はコアは固体だと考えられている。
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水星の大気
水星の重力は小さいため、気体分子を留めておくことができない。
それでも水星は極めて薄い大気を持つ。
地殻の放射性元素の崩壊によって生じたヘリウムや、太陽風によって運ばれたヘリウム、水素なのである。
水星の大気は無いに等しいため、昼夜の気温差が激しい。
昼間は400℃、夜はマイナス160℃になる。
現在までに発見された範囲では、水星は最も温度差の激しい天体なのである。
水星の氷
昼間は高温に達し、重力も小さいことから、水は存在しないと考えられてきた。
ところが、水星の極地のクレーターの底に氷があるらしいことが分かってきた。
水星の極地のクレーターの底には太陽光があたらないので、水は氷として存在しているようだ。
月も同様で、決して太陽光があたらない低地に氷が存在することが有望視されている。
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水星の磁場
マリナー10号は、水星には弱いながらも磁場があることを発見した。
磁場の強度は地球の1%程度しかないが、それでも太陽風の進路を変えるほどの力を持つ。
中心核を構成する液体の鉄が、対流などで回転するとその周囲に磁場が生じる。
これをダイナモ理論と呼ぶ。
水星の核は固体であると予測されているので、これほど大きな磁場を生むとは考えにくい。
ダイナモ理論以外のメカニズムが予測されている。
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水星の軌道
離心率
惑星の軌道は真円ではない。楕円である。
楕円のつぶれ方は惑星によって異なる。惑星ごとにそれぞれの離心率を持っているのだ。
水星の軌道の離心率は、太陽系の惑星の中で突出して大きい。
つまり水星は、太陽系で最も極端につぶれた軌道を描いて公転しているのである。
離心率が極端に大きいため、太陽からの距離の変化は激しい。
近日点では4600万キロメートルなのに、遠日点では7000キロメートルになる。
惑星の公転スピードは近日点は速く、遠日点では遅くなる。
相対性理論では、速く動く物体は重くなる。
このため、惑星は近日点では重く、遠日点では軽くなるのだ。
水星の軌道は離心率が大きいので、近日点と遠日点での質量の差が他の惑星に比較して顕著だ。
近日点を通過するとき、スピードが上がるので水星は重くなっている。
このため、水星は近日点のカーブを曲がり切れず、本来の公転軌道から外側に膨らんだ軌跡を描いて遠日点へと向かう。
これが、公転周期の88日毎に繰り返されるので、水星の近日点は少しずつ移動していくのである。
軌道傾斜角
各惑星の軌道面は少しずつ傾いている。
地球の軌道面(黄道面)に対する、他の惑星の軌道の傾きが軌道傾斜角だ。
水星の軌道傾斜角は、太陽系の惑星の中で最も大きい。
水星の会合周期は約116日である。
約116日ごとに内合になるが、水星の太陽面通過は約116日ごとには起こらない。
軌道傾斜角が大きいからだ。
水星が地球の軌道を横切るタイミングで内合を迎えるのは約7年周期である。
今後の水星探査
マリナー10号以来、水星探査には30年間のブランクがある。
マリナー10号も水星の全表面の45%程度しか撮影していないのだ。
依然として、水星の謎は多い。
今後、NASAのメッセンジャー、ESAのベピ・コロンボが水星探査に向かう。
メッセンジャーは、2008年1月14日、2008年10月6日、2009年9月29日に水星でのスイングバイを実施した。
2011年3月18日に水星の周回軌道に投入される予定である。
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水星の内側に惑星はあるのか?
19世紀の一時期、水星の内側を回る惑星が仮定されバルカンと命名された。
バルカンの探索は広く行われたが、発見には至らなかった。
現在、バルカンの存在は完全に否定されている。
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参考文献・サイト
Solar System Exploration:Mercury
Messenger
BepiColombo
World Book at NASA
APOD:Mercury's Horizon from MESSENGER
2008/11/23
2009/08/16
2010/01/11