パルサーを語る。
パルサーとは
短い周期で電磁波(可視光線・電波・X線・ガンマ線)を放射する天体をパルサーという。
放射の間隔(パルス周期)は、数ミリ秒から数秒の範囲が多い。
「中性子星」=「パルサー」という説明を時々見かけるがこれは誤りである。
大部分のパルサーは中性子星であるが、すべての中性子星がパルサーとは限らない。
さらに、中性子星以外の天体もパルサーになりうる。
パルサーとは「パルスを発するもの」なので、特定の種類の天体を指しているのではないのである。
当初は、電波を発するパルサーが多く発見されたが、可視光パルサー、X線パルサー、ガンマ線パルサーが発見されている。
パルサー発見の歴史
パルサーはケンブリジ大学のヒューイッシュ教授と、その指導下にあった大学院生ベルによって発見された。
銀河系内の電波源を調査しているとき、ベルが規則正しいパルス波を検出した。(1967年)
発見されたパルス波の周期は極めて短く規則正しい。
このことから、この天体はパルサーと命名された。
極めて速い規則的な周期運動が、秒単位のパルスを生成すると推測された。
パルサーの正体として中性子星が考えられた。
当時、中性子星は理論上の存在であって、実在は確認されていなかった。
しかし、パルサーの高速な周期運動を説明できる天体として、中性子星がクローズアップされたのだ。
一般の恒星はこれほど速く自転できない。
赤道部にかかる遠心力の影響で星自身が分解してしまうからである。
中性子星だったら密度が極めて高いため、強い遠心力に打ち勝つだけの重力を持つ。
さらに、中性子星は理論的に高速回転が予測されていたのである。
つまり、パルサーになるのは、中性子星以外に考えられなかったのだ。
その後、かに星雲(M1)の内部でパルサーが発見された。(1968年)
かに星雲(M1)は超新星の残骸である。
かに星雲の中心にパルサーが発見されたことによって、中性子星は超新星爆発によって誕生することと、中性子星の正体がパルサーであることが確認されたのである。
パルサーの発見によって、ヒューイッシュはノーベル賞を受賞した。
しかし、なぜか第一発見者のベルは受賞を逃している。
なお、発見当初、ヒューイッシュはパルス波を地球外知的生命体による通信だと考えたというエピソードが残っている。
パルサーのメカニズム
宇宙の灯台
中性子星の持つ磁場は強い。
このような中性子星が高速で自転することによって、周囲の荷電粒子が加速され進路が曲げられる。
このため、シンクロトロン放射によって電磁波が放たれる。
中性子星の自転軸と磁極は一致していない。
このため、中性子星の自転によって磁極が振り回されることになる。
磁極が地球の方向を向いたときに、放射線が届くのだ。
シンクロトロン放射は自転と同期しているため、パルサーの周期は短いのだ。
パルサーからの電磁波は、灯台に例えることができる。
灯台は絶えず、強力なライトで光を放っている。
観測者(例えば船の操縦者)から見ると、ライトが回転するタイミングで光が見えることになる。
ライトは常に光っている。
しかし、そのライトが観測者の方向を向いたときのみ光が見えるのだ。
同様にパルサーは、絶えず、強力な電磁波を放っている。
地球上の観測者は、パルサーの磁極が地球の方を向いたときにその電磁波をキャッチするのである。
パルサー自身が短い周期で点滅しているのではないのである。
パルサーが放つ電磁波の周期は数ミリ秒から数秒の短い範囲である。
これは中性子星がこれほどのスピードで自転していることを示している。
こんなスピードで回転して星自身が破壊されないのは、中性子星の重力が強いからである。
パルサーの周期は非常に正確であるが、長期間の間にはパルスの間隔が長くなっていく。
これは、電磁波を放つことによってパルサーのエネルギーが奪われるからである。
周期1秒のパルサーは、100万年後に周期1.03秒になるのが、おおよその周期の変化の目安である。
グリッチ
パルサーのパルス間隔は極めて正確である。
その一方で、突然、パルス間隔が短くなる現象がある。
つまり、パルサーの自転スピードが急にアップするのである。
この現象を「グリッチ」という。
パルサーの内部は超流動体になっており、この超流動体の回転するスピードとパルサーの表面の自転スピードの不一致が原因らしい。
1回のグリッチで放出されるエネルギーは、太陽放射の3000年分に匹敵する。
グリッチが頻繁に観測されるパルサーとして「ほ座パルサー」が有名である。
ほ座パルサーは、25年間で13回のグリッチが確認されている。
さらに、ほ座パルサーを上回る頻度のグリッチも発見されている。
かじき座のパルサーPSR J0537-6910は、ほ座パルサーの3倍の頻度でグリッチを起こしている。
パルサーの種類
パルサーには様々な種類がある。
パルサーになるのは中性子星だけだと思われていたが、白色矮星のパルサーもX線天文衛星「すざく」によって発見されている。
ラジオパルサー
ラジオパルサーは、最も一般的なパルサーである。
回転エネルギーを電磁波として放射する。
このため徐々に回転数が低下する。
X線パルサー
X線パルサーは、近接連星系で一方からガスが中性子星に膠着するときに放射する。
マグネター
マグネターは強力な磁場を持つ。
この磁場のエネルギーが放射のエネルギーになる。
ミリセカンドパルサー(ミリ秒パルサー)
周期がミリ秒単位のパルサーを、ミリセカンドパルサーと呼ぶ。
(ミリセカンドとはミリ秒のことである)
通常、パルサーの周期は徐々に長くなっていく。
しかし、反対に周期がだんだんと速くなってしまったパルサーがミリセカンドパルサーなのだ。
ミリセカンドパルサーは白色矮星と連星を形成している。
このことから、赤色巨星からガスが流れ込み、パルサーの自転速度を速めた結果、ミリセカンドパルサーになり、赤色巨星は白色矮星に移行したと考えられている。
パルサーの例
PSR J1903+0327
太陽質量の1.5倍のパルサーと、ほぼ太陽質量に等しい星の連星である。
このパルサーはミリセカンドパルサー(1秒間に465回転)で、アレシボ天文台によって発見された。
2万光年の距離にある。
この連星系は元々3重連星で、パルサーは低速回転であったと考えられている。
ケンタウルス座X-3[X-3 Cen]
最初に発見されたエックス線パルサーである。
1967年にエックス線源として発見されたが、エックス線パルサーであることが判明したのは1970年代である。
ケンタウルス座X-3は、太陽質量の約20倍の青色巨星とほぼ太陽質量に等しい中性子星の連星系である。
PSR J1748-2446ad
いて座にある極めて高速で回転するパルサーである。
回転数は716Hz(1秒間に716回転)であり、2008年現在、最も高速なパルサーである。
2004年に発見された。
太陽系から1万8000光年の距離にある。
このパルサーの半径は16キロメートルと見積もられている。
回転数と半径から計算して、赤道部は光速の24%で回転していることになる。
PSR J0737-3039
二つのパルサーから構成されるパルサーの連星である。
周期23ミリ秒と2.8秒のパルサーが、2.4時間で回りあっている。
2003年におおいぬ座で発見された。
二つのパルサーの公転軌道は、一日に7mmずつ狭くなっていく。
この影響で、8500万年後に二つのパルサーは衝突する。
CTA 1
CTA 1は、ケフェウス座にある超新星残骸である。
超新星残骸の内部には、ガンマ線パルサーの第一号として2008年にガンマ線天文衛星フェルミによって発見された。
太陽系から4600光年の距離にある。
このパルサーは約1万年前に誕生し、現在は316.86ミリ秒の周期を持つ。
ガンマ線パルサーのビームは、電波パルサーのビームよりも広いを考えられている。
PSR J1740-5340
さいだん座にあるミリセカンドパルサーである。
伴星として赤色巨星を持つため、誕生直後のミリセカンドパルサーと考えられている。
みずがめ座AE [AE Aqr]
みずがめ座AEは、白色矮星のパルサーである。
エックス線天文衛星「すざく」により、X線のパルスを放っていることが確認されている。
パルサーの関連ネタ
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- 恒星を語る。
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- 天文学の用語集
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参考文献・サイト
A Pulsar Discovery
NASA Sees Hidden Structure Of Neutron Star In Starquake
NASA'S Fermi Telescope Discovers First Gamma-Ray-Only Pulsar
THE "BIG GLITCHER" PULSAR REVEALS A LONG-HIDDEN, EXOTIC INTERIOR
WHAT ARE PULSARS?
First view of a newborn millisecond pulsar?
2008/01/26